またしても、宮崎夏次系センセイがやってくれました。
世界の奇妙さは『変身のニュース』を引き継ぎつつ、登場人物たちの意識がアップデートプログラムで修正されたような、やや複雑な行動を、今作では見ることができます。
前作同様のカタルシスはあっても、それが直接の問題解決にはなっていないのが良いです。
私たちが今、「時代の閉塞感」という言葉から、もはや何も感じることがないように、底が抜け、フレームを失った世界においては、閉塞感すら感じることはないでしょう。
それは、自分のいる場所と、費やしているエネルギーの矛先が見えないからです。
この状況はまるで、“ある粒子の速度と位置を、同時に正確に測ることはできない”、不確定性原理の問題のようでもあります。
『僕は問題ありません』で描かれているのは、そんな世界からの「脱出方法」かもしれません。
全8話の短編は、それぞれの「問題」を、絶妙に常識的なバランスを無視した方法で「観測」して行きます。
脱出のカギは、形は違えど同じもので、誰もが持っているはずのものです。
このことに気づけないと、人は不確定な不幸のなかをグルグルと生きることになるでしょう。
宮崎夏次系さんのマンガがもたらす感動は、読む人間の「位置」を知らせる、重要な地図だと思います。