今、日本のSFが面白くなっていますが、この作品、野崎まど 『know』もその1冊に入れていいと思います。
舞台は、現代よりもさらに情報化とネットワーク化の進んだ日本。
情報へのアクセス権は「クラス」という階級によって仕分けされ、その格差までも視覚化されている社会での物語になります。
ほとんどすべてがデータ化されているため、脳だけではその膨大なデータを処理できず、脳に「電子葉」という補助器を移植して暮らす人々の姿は、そう遠くない私たちを見ているかのようです。
主人公は、この電子葉のプログラムをした天才研究者の教え子で、ある日、失踪した恩師がコードに残した暗号に気づくことからストーリーが進展して行きます。
それは、人間が物事を「知る」ということが、何を意味し、何のためにあるのか、あるひとつの思想に昇華されていく、パズルのような理論でした。
最高クラス同士の攻防は、まさに量子コンピューター同士の知能戦なのですが、「計算が遅れたために、1日早く目的地に登場してしまった」なんていう、異能バトルならではの珍解答も出てきます。
したたかに伏線を回収していく様が見事で、読者の興味と、作中の「知る」行為がシンクロして読めるのが、非常に気持ち良かったです。
ラストシーンをどう受け取るかは、その人の死生観が大きく関係するかもしれません。
私はロマンチックだなと思いました。