いつでも難解そうな本がたくさん並んでいる、海外文学の新刊コーナー。
そんななかにあって、ひときわ異質なオーラを放っていたのがこの本です。
翻訳者の力もあるでしょうが、とにかく平易な言葉で、出来事の輪郭をシンプルに書いているだけなのに、絶えず想像力が刺激されます。
ときどき入る挿し絵と、不条理な出来事、黄色い装丁から、エドワード・ゴーリー『うろんな客』のことを思い出したりもしました。
軽く読めるとはいえ、こんなセリフもサラッと出てくるので注意が必要です。
「子どもを持つことの最大の難しさは、妻より子どもを愛しているのだと、人が自覚してしまうことでしょうな。愛する妻よりも、さらに愛することのできる誰かがいるのだと。さらに悪いのは、それが努力を要さぬ愛であることだ。その愛は、ただそこにある。そこにあり、朽ちることなく、強く深まる一方だ。というのに妻への愛ときたら、努力を要するうえに、どんなにたゆまぬ必死の努力を積んだところで、なにも得られはしないのです。ぽつねんと、虚しく取り残されるばかりでね。まるで、窓辺に忘れ去られた鉢植えのように」
自分にとって「もっとも思い入れのあるもの」は「魂の51%」に相当すると言い、銀行強盗はそれらを奪って姿を消します。
失った51%を自分で回復できなければ、あなた方は死ぬと宣告され、後日、本当に被害者たちの身体にはおかしな変化が訪れます。
そして次々と死んで行きます。なぜ助からないのでしょう。
じつはこの呪い、読者はもちろん、あらゆる人間に同じものがかけられているのだと思います。
助かる人もいますが、死んでしまう人たちのなかにも、幸福そうな人はいました。
とすれば、死を免れることが重要ではない気もしてきたり……と考えるのも面白い1冊です。