先日、駅に着くと、
階段に人が溢れていた。
どこかの駅で死人が出たらしい。
ずいぶんかかりそうだったので、
引き返して時間をつぶした。
小学生のころの記憶がよみがえる。
駅で飛び込み自殺があった。
事故を聞きつけた誰かが、
私や友人を呼びに来て、
早く見に行こうとせき立てた。
単純な好奇心で私たちは駅に向かった。
先に来ていたらしい上級生たちが、
死んだのは若い女性で、
首と手と足がバラバラなんだと、
興奮気味の低い声で言った。
私と友人たちは顔を見合わせてから、
人混みをくぐり抜け、フェンスによじ昇った。
大きな青いビニールシートが、
線路を覆うようにかけてあって、
死体は見えなかった。
生暖かい風が吹いていて、
ビニールシートがひたひたと動いた。
何かが見えそうで、見えなかった。
ずっと血の匂いがしている気がして、
私はできるだけ息を止めて帰った。
失恋による自殺だという話を聞き、
ウソかホントかは知らないけど、
子供ながらに怖いような寂しいような、
説明のできない気持ちに支配されたことを覚えている。
一度も言葉にしていない記憶の、
そのくせ自分のなかにずっと居座り続けている、
意味や価値ではどうすることもできない、
こういった観念のようなものって何なんだろう。
だからどうしたと聞かれても、
べつにとしか答えようがないものなんだけど。